【サラリーマン向け】年金の繰り下げ受給で最適な老後資金額計算ができる理由

 老後の資金がいくら必要か分からず、不安を感じている会社員の方も多いのではないでしょうか。そんな方は年金の繰り下げ受給を使って老後資金戦略を立てると老後の不安が解消されるかもしれません。この資金戦略を使うと老後資金計算の精度が上がり、最適な老後資金がいくらか分かるようになります。

 

そもそも老後資金が必要な理由は、年金だけでは生活できないから

【必要な老後資金】=【老後の出費】ー【年金受給額】

 見出しの式から分かるように老後の出費以上の年金をもらえる人は老後資金の準備は不要です。しかし、普通のサラリーマンは年金だけでは足りません。年金だけでは老後の生活ができないため、現役時代にお金を貯めておく必要があります。では、普通のサラリーマンの老後の出費と年金受給額はいくらなのでしょうか?

平均的な老後の出費は26万円/月、年金受給額は19万/月

 2022年度の総務省統計局の調査(家計調査年報(家計収支編))によると、夫婦二人暮らしの場合、老後の平均的な出費は月々約26万円(社会保険料、税金含む)でした。

 一方、厚生労働省公的年金シミュレーターによると年収400万円の夫と専業主婦の妻の場合、年金受給額は月々約19万円となります。26万円ー19万円=7万円が月々不足する計算です。

 85歳まで生きると仮定すると65歳時点で必要な老後資金は7万円×12カ月×(85歳-65歳)=1680万円となります。一般的にはこの不足する1680万円が老後資金として準備が必要な金額とされます。年金だけでは足りない差額分を老後資金残高から取り崩す生活です。これをグラフで表すと下のようなイメージです。

通常の老後資金取り崩しイメージ

繰り下げ受給を活用した老後資金戦略の方法_【老後の出費】=【年金受給額】を目指す

年金の繰り下げ受給とは

 年金の繰り下げ受給とは、年金の受け取り開始時期を遅くすることで受取額を増やす方法です。通常年金は65歳から受け取れますが、その受取を1か月単位で最大120ヵ月(10年)まで遅らせることが出来ます。1か月遅くする毎に年金の受取額が0.7%増えるため、最大で0.7%×120=84%まで増やす事が可能です。

繰り下げ受給を活用した老後資金戦略の方法

 繰り下げ受給を活用した老後資金戦略の考え方は次の通りです。65歳以降数年間は繰り下げ受給するため、年金を受け取りません。その期間の出費は100%老後資金を取り崩して行います。その間、1か月年金の受け取りを遅くする毎に年金受取額は0.7%ずつ増加します。年金受取額が増え、老後の出費を100%カバーできるようになったら、年金の受給を開始します。

何年で【老後の出費】=【年金受給額】になるか

 先程の例について、何年で【老後の出費】=【年金受給額】になるか考えます。通常の年金受給額が19万円、出費が26万円です。19万円を26万円にするためには、(26万ー19万)÷19万×100%=36.8%の増額が必要です。繰り下げ1か月で受取額は0.7%増えるので、36.8%増やすためには36.8%÷0.7%=52.6ヵ月(4年5ヵ月)年金の受け取りを遅らせれば良いことが分かります。

繰り下げ受給を利用した場合、老後資金はいくら必要か

 この方法では【必要な老後資金】=【年金受取を我慢している期間の出費】になります。そのため、26万×53ヵ月(4年5ヵ月)=1378万円が必要な老後資金となります。先程計算した一般的な方法では必要な老後資金は1680円でしたので、繰り下げ受給を使うと老後資金が約300万円安く済みます。

繰り下げ受給を活用した老後資金戦略のイメージ

繰り下げ受給を活用した老後資金戦略のメリット・デメリット

 一般的な老後資金戦略と比較したときのメリット・デメリットを紹介します。

メリット①長生きをしても資金不足にならない

 繰り下げ受給を活用した戦略では、死ぬまで年金で生活できるため、何歳まで生きても問題ありません。

 一方、一般的な老後資金戦略では、何歳まで生きるか想定して必要な老後資金を設定します。(今回の例では85歳としました)そのため、設定した年齢を超えると資金が足りなくなるため、長生きに不安を感じることになります。これは大変なストレスです。  

 こういった不安を感じずに済むのは大きなメリットと言えるでしょう。

メリット②適切な老後資金設定ができる

 繰り下げ受給を活用した戦略では、老後資金の計算で寿命を考える必要がありません。繰り下げ受給を何年すれば、【老後の出費】=【年金】になるかを考えるだけです。そのため、とてもシンプルに適切な老後資金設定が出来ます。

 一方、一般的な老後資金戦略では、適切な老後資金設定は非常に困難です。なぜなら自分の寿命を予想しなければならないからです。先ほどの例では設定する寿命を1年増やすと老後資金は84万円増加、1年減らせば84万円減少します。寿命を長めに考えれば余裕のある計画が出来ますが、老後資金が大量に必要です。逆に短め考えれば、必要な老後資金は少額で済みますが、長生きにストレスを感じます。自分の寿命が予想できない限り、この方法では適切な老後資金設定はできません。

 老後資金計算の精度が上がることは、この方法の一番大きなメリットだと思います。

メリット③早めに亡くなった場合でも老後資金が無駄にならない

 現役時代に頑張って貯めたお金を全然使えずに亡くなってしまったらどう思うでしょうか。きっとこんなことなら元気な時に好きな事でお金を使えばよかったと後悔するでしょう。

 繰り下げ受給を活用した場合、老後資金を優先的に使うため早く亡くなった場合も老後資金の損は小さくて済みます。先程の例で70歳で亡くなった場合、一般的な老後資金戦略では1260万円程老後資金が余りますが、繰り下げ受給活用の場合1円も無駄になりません。現役時代の苦労が無駄になりづらいのは、老後資金を準備するときのモチベーション維持にも良いのではないでしょうか。

デメリット①老後の出費と年金受給額の差額が大きすぎると使えない

 【老後の出費】÷【年金受給額】=1.84を超えるとこの方法は使えません。なぜなら繰り下げ受給は10年までと決まっているからです。受取金額を最大まで増やせても0.7%×120ヵ月(10年)=84%となります。そのため、老後の出費と年金受給額の差額があまりに大きい場合、この方法は使えません。

こんなデメリットもあるのでは?それに対する私の考え

繰り下げ年金受給開始後に貯金0になるのは不安

 少し多めに老後資金を設定することで老後も貯金を残せます。今回の例で老後に300万円貯金をしたいとします。その場合、最低限必要な老後資金1378万円+300万円=1678万円用意すれば老後も300万円の貯金を維持できます。

いつ死ぬか分からないのに、繰り下げ受給をしたら損では?

 確かに繰り下げ受給をして早く亡くなった場合、年金の総受取額が少なくなる可能性はあります。しかし、それで困ることはないはずです。亡くなった後にお金を使うことはありません。それよりもメリット③で書いたように老後資金がたっぷり余って現役時代の頑張りが無駄になる方が損だと思います。

最後に

 一般的なサラリーマン家庭の場合、繰り下げ受給を活用することで、適切な老後資金額を設定できます。それは寿命という不確かな要素を排除して計算ができるようになるためです。繰り下げ受給を活用して現役時代と老後のバランスを上手にとりましょう。